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薬剤師のインシデント責任と法的リスク|辞めたい時の対処法と職場選び

薬剤師が直面する調剤インシデントの法的責任を解説するインフォグラフィック。民事・刑事・行政の3つの責任の違いや、安全な職場と危険な職場の特徴を比較表で分かりやすく示し、万が一の時の自己防衛策を紹介します。

調剤室のカウンター越しに患者さんへ薬を渡した後、「あれ、さっきの薬、本当に合っていたかな?」と背筋が凍るような感覚に襲われたことはありませんか?

調剤薬局で働く私たち薬剤師にとって、インシデントや調剤過誤(アクシデント)は常に隣り合わせの恐怖です。大学では「薬剤師は人の命を預かる仕事」と教わりますが、実際に現場に出ると、その責任の重さが具体的な「法的リスク」や「損害賠償」という形をとってのしかかってきます。

「もし患者さんに何かあったら、私は逮捕されるの?」
「多額の賠償金を請求されたら、人生が終わってしまう」
「もう怖くて、監査のたびに手が震える。辞めたい」

そんなふうに一人で悩み、夜も眠れない日々を過ごしているなら、少しだけ深呼吸してこの記事を読んでみてください。法律はあなたを罰するためだけに存在しているのではありません。正しく知識を持つことは、漠然とした恐怖を消し去り、あなた自身を守る「盾」になります。

この記事では、長年調剤現場に立ち続けてきた私が、薬剤師が負うべき本当の責任範囲と、万が一の時に身を守るための具体的な防衛策について、専門的な根拠を交えて解説します。あなたが過度なプレッシャーから解放され、安心して働ける環境を見つける手助けになれば幸いです。

筆者

私も新人時代、疑義照会をためらってヒヤリとした経験があります。その時の恐怖は今でも忘れられません。でも、正しい知識があれば、必要以上に怯えることはないのです。

この記事で分かること

  • 薬剤師が問われる「民事・刑事・行政」3つの責任の境界線
  • インシデント(ヒヤリハット)と調剤過誤の法的な違い
  • 個人での損害賠償支払いを防ぐ「使用者責任」の仕組み
  • ミスの原因を「個人の資質」ではなく「環境」で見極める方法
  • 安心して働ける「医療安全システム」が整った職場の選び方
CONTENT

薬剤師が負う「3つの責任」とは?法的リスクの正体を正しく知る

「責任を取れ」と言われたとき、具体的に何をどう取ればいいのかわからず、漠然とした恐怖だけが膨らんでいませんか?まずは敵を知ること、つまり法的責任の正体を分解して理解することが、不安解消の第一歩です。

薬剤師が業務上のミスにより患者さんに健康被害を与えてしまった場合、法的には「民事責任」「刑事責任」「行政責任」という3つの異なる責任が発生する可能性があります。これらはそれぞれ別の法律に基づいており、目的もペナルティの内容も全く異なります。重要なのは、これらが独立して動くため、1つの事故で3つすべての責任を問われることもあれば、どれか1つだけというケースもあるという点です。

民事責任:損害賠償は個人が払うのか?(使用者責任の解説)

民事責任とは、被害を受けた患者さんに対して、金銭で損害を償う責任のことです。根拠となるのは民法第709条(不法行為責任)や第415条(債務不履行責任)です。具体的には、治療費、通院交通費、休業損害、そして精神的苦痛に対する慰謝料などが請求されます。死亡事故や重篤な後遺症が残った場合、その賠償額は数千万円から億単位になることもあり、これが多くの薬剤師が最も恐れる「経済的破滅」のイメージ源となっています。

しかし、ここで重要なのが「使用者責任(民法第715条)」という考え方です。日本の法律では、従業員(薬剤師)が業務中に起こしたミスについて、その従業員を使って利益を得ている雇用主(薬局開設者)も連帯して責任を負うと定められています。実際、被害者側にとっても、資力の乏しい一薬剤師個人を訴えるより、会社組織を訴える方が確実に賠償金を得られるため、訴訟の矢面に立つのは原則として薬局(会社)になります。

「では、個人は絶対に支払わなくていいの?」と聞かれると、100%ではありません。会社が被害者に賠償金を支払った後、会社からミスをした薬剤師個人に対して「求償(肩代わりした分を払え)」という請求が来る可能性は理論上残されています。ただし、最高裁の判例などにより、労働環境や過失の程度が考慮され、全額請求が認められることは極めて稀です。特に、人員不足やシステム不備がある中で起きたミスであれば、個人の負担割合は大幅に制限される傾向にあります。

このように、民事責任においては「薬局が加入している賠償責任保険」が守ってくれるケースが大半です。ただし、薬剤師側に「故意(わざと)」や「重過失(著しい不注意)」があった場合は話が別ですので、日々の業務における誠実な確認作業は欠かせません。

刑事責任:業務上過失致死傷罪が問われるライン

刑事責任とは、国家が犯罪として個人を処罰するものです。薬剤師のミスによって患者さんが死亡したり怪我をしたりした場合、刑法第211条の「業務上過失致死傷罪」に問われる可能性があります。刑罰の内容は「5年以下の懲役若しくは禁錮、または100万円以下の罰金」と定められています。

「薬を取り違えただけで逮捕されるの?」という不安を持つ方も多いでしょう。刑事責任が問われるかどうかの最大の争点は、「予見可能性(ミスにより結果が起きることを予測できたか)」「結果回避義務(ミスを防ぐための行動をとったか)」の2点です。単なるうっかりミスですぐに実刑判決が出るわけではありませんが、過去の判例(ウブレチド事件など)では、専門家としての高度な注意義務を怠ったとして有罪判決(執行猶予付き禁錮刑など)が出たケースも存在します。

警察が介入するのは、主に死亡事故や重篤な健康被害が発生した場合です。この場合、逮捕されるかどうかは「逃亡や証拠隠滅の恐れ」があるかで判断されます。誠実に事実を認め、反省の態度を示していれば、在宅起訴(逮捕されずに捜査が進むこと)となるケースも多いです。しかし、警察沙汰になるという精神的ストレスは計り知れません。

刑事責任については、個人の過失だけでなく、医師の処方ミスを見抜けなかった場合の「疑義照会義務違反」も厳しく問われます。医師の指示通りだからといって免責されるわけではない、というのが薬剤師業務の厳しさでもあります。

行政責任:免許取り消しや業務停止になるケース

行政責任とは、薬剤師免許を与えた国(厚生労働大臣)からの処分を指します。薬剤師法第8条に基づき、「免許の取り消し」「業務停止(数ヶ月〜数年)」「戒告」などの処分が下されます。これは、薬剤師としての品位を損なった場合や、重大な事故を起こして刑事罰を受けた場合に検討されます。

処分の流れとしては、まず刑事事件として判決が確定した後などに「医道審議会」という場で審議され、処分内容が決定します。つまり、ちょっとしたインシデントを起こしたからといって、いきなり保健所から連絡が来て免許を剥奪されるようなことはありません。行政処分は、社会的な影響が大きく、薬剤師としての適格性が疑われるような重大事案に限られるのが一般的です。

行政処分の詳細な基準や考え方については、ヤクヨミなどの専門サイトによる法的責任解説でも触れられていますので、詳しく知りたい方は確認してみると良いでしょう。

ここで、3つの責任の違いを整理しておきましょう。これが頭に入っているだけで、トラブル時の混乱を減らすことができます。

責任の種類 主な目的 処罰・ペナルティ 根拠法
民事責任 被害者の損害回復 損害賠償金の支払い
(主に薬局・保険会社が負担)
民法709条
民法715条
刑事責任 国家による制裁 懲役、禁錮、罰金
(前科がつく)
刑法211条
(業務上過失致死傷)
行政責任 免許・資格の管理 免許取消、業務停止、戒告
(仕事ができなくなる)
薬剤師法8条

インシデントと調剤過誤(アクシデント)の決定的な違い

現場では「インシデント」や「ヒヤリ・ハット」という言葉が飛び交いますが、これらと法的な責任問題になる「調剤過誤(アクシデント)」との境界線はどこにあるのでしょうか。この区別は、あなたの心を守るために非常に重要です。

結論から言うと、「患者さんに健康被害が生じたかどうか」が最大の分岐点です。厚生労働省の医療安全対策の定義に基づき、以下のように区別されます。

  • インシデント(ヒヤリ・ハット):
    間違った薬を調剤したが、監査で気づいて修正した。あるいは患者さんに渡してしまったが、服用前に気づいて回収できた場合。また、服用してしまったが健康被害が全くなかった場合も含みます。この段階では、法的な賠償責任や刑事責任は原則として発生しません。
  • 調剤過誤(アクシデント):
    過失により間違った薬を交付し、結果として患者さんに副作用や病状悪化などの健康被害が生じた場合。これが「事故」であり、先述した3つの責任の対象となります。

つまり、どれほど冷や汗をかくようなミスをしたとしても、患者さんが無事であれば、それは「インシデント」であり、あなたは犯罪者にはなりません。この場合に必要なのは、自分を責めることではなく、再発防止のためのレポート作成と業務フローの見直しです。被害が出ていない段階で過度に怯える必要はありません。

筆者

「被害がない=責任がない」と開き直るのは禁物ですが、「被害がない=法的には守られている」と知ることは、パニックを防ぐために大切です。まずは落ち着きましょう。

なぜインシデントは起きるのか?「個人のミス」ではなく「環境」を疑う視点

「またミスをしてしまった。私は薬剤師に向いていないんじゃないか……」
そうやって自分を責め続けていませんか?しかし、多くのインシデントにおいて、悪いのはあなた個人ではなく、あなたが置かれている「環境」である可能性が非常に高いのです。

医療安全の世界では、すでに「精神論」の時代は終わっています。ここでは、最新の事故防止の考え方と、避けるべき危険な職場の特徴について解説します。

システムエラー対ヒューマンエラー:近年の医療安全の潮流

かつては、ミスをした個人に対して「たるんでいる」「確認不足だ」と叱責し、反省文を書かせることが対策とされていました。しかし、人間は誰でも間違える生き物です。疲れていれば注意力は落ちますし、焦っていれば見落としも増えます。個人の注意力に依存した対策には限界があるのです。

現在、日本医療機能評価機構などが推奨しているのは、「システム思考」です。「誰が間違えたか」ではなく「なぜ間違える環境だったのか」を問います。例えば、規格違いの薬品が隣同士に並んでいたなら、それを離して配置することが対策です。倍量処方の見落としが多いなら、レセコンの警告設定を見直すのが対策です。

もしあなたの職場で、インシデントが起きた際に「誰がやったんだ!」と犯人探しが始まり、個人の反省だけを強要されるなら、その職場は医療安全のレベルが著しく低いと言わざるを得ません。そうした「人を責める文化」の職場にいる限り、いつか重大な事故に巻き込まれるリスクが高いでしょう。

危険な職場環境のサイン(人員不足、監査システムなし)

インシデントが頻発する薬局には、明確な共通点があります。それは、薬剤師個人のスキルではカバーしきれない構造的な欠陥があることです。以下のような環境で働いていませんか?

  • 圧倒的な人員不足:
    処方箋枚数40枚につき薬剤師1名という基準ギリギリ、あるいはそれ以下の体制で回している。電話対応や投薬の合間に、慌ただしく調剤・監査を行わざるを得ない状況は、ミスを誘発する最大の要因です。
  • 監査システムの不在:
    散剤(粉薬)や水剤の監査システム、ピッキング監査(バーコード照合)などのハードウェアが導入されていない。すべてを目視確認(ダブルチェック)に頼っている場合、思い込みによるすり抜け(ヒューマンエラー)は防げません。
  • 休憩時間が取れない:
    長時間労働による疲労の蓄積は、脳のパフォーマンスを低下させます。意識が朦朧とした状態で正確な監査などできるはずがありません。

これらの環境下で起きたミスについて、あなた一人が責任を感じる必要はありません。これらは経営者(開設者)が設備投資や採用コストを惜しんだ結果であり、いわば「経営判断のミス」が現場にしわ寄せとして来ているだけなのです。

管理薬剤師・薬局開設者の責任範囲と守られるべき権利

法的に見ても、現場の薬剤師を守るための責任構造が存在します。薬局開設者や管理薬剤師には、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、適切な管理体制を整える義務があります。

もし、あなたが「人員を増やしてほしい」「監査システムを入れてほしい」と訴えたにもかかわらず、会社がそれを無視し続けて事故が起きた場合、その責任の所在は大きく会社側に傾きます。民法715条の使用者責任は、まさにこのような「利益を上げている者がリスクも負うべき」という考えに基づいています。

管理薬剤師の方であれば、「部下のミスは自分の責任」と重圧を感じているかもしれません。確かに監督責任は問われますが、それは「適切な指導や体制整備を行っていたか」が争点となります。会社に対して改善要求を出していた記録などがあれば、それがあなたを守る証拠になります。全てを背負い込むのではなく、会社として組織としてどう対応するかを考える視点を持ちましょう。

チェック項目 安全な職場(ホワイト) 危険な職場(ブラック)
監査システム 散剤・水剤・ピッキング監査機を完備 目視確認のみ、または機器が古い
人員配置 1人あたりの処方箋枚数に余裕がある 常にギリギリ、休憩も取れない
事故後の対応 システム改善(配置変更、マニュアル改訂) 個人の吊るし上げ、反省文の強要
休憩・休日 しっかり確保され、集中力が維持できる サービス残業常態化、疲労困憊

万が一の時の自己防衛策:賠償責任保険とインシデントレポート

調剤薬局で働く薬剤師が知るべき「インシデント」と「調剤過誤」の決定的な違いを示すイラスト。患者への健康被害の有無が法的責任を分ける境界線であることを図解しています。

どれほど気をつけていても、人間である以上ミスをゼロにすることはできません。だからこそ、起きてしまったときに自分を守るための「命綱」を用意しておくことが重要です。ここでは、具体的な防衛策を2つ紹介します。

薬剤師賠償責任保険への加入実態と個人加入のすすめ

薬剤師賠償責任保険の個人加入について真剣に考える薬剤師。会社の保険だけではカバーできないリスクに備えることの重要性を表現。

あなたは自分が加入している「保険」について詳しく把握していますか?多くの薬局は法人として賠償責任保険に加入していますが、それだけで安心するのは早計です。

会社の保険はあくまで「会社を守るため」のものです。先述したように、会社が被害者に賠償した後、あなた個人に求償してくるリスクに備えるには、「個人向けの薬剤師賠償責任保険」への加入が最強の防衛策となります。

日本薬剤師会の薬剤師賠償責任保険などが有名ですが、年間数千円程度の掛金で、数千万円から1億円規模の補償が得られます。さらに、示談交渉サービスがついているものもあり、万が一の際にプロが間に入ってくれる安心感は計り知れません。派遣薬剤師の方や、会社の体制に不信感がある方は、自分のお守りとして個人加入を強くお勧めします。月数百円で「枕を高くして眠れる権利」が買えると思えば、安い投資です。

身を守るためのインシデントレポートの正しい書き方

インシデントレポートを書く際、「私の確認不足でした。申し訳ありません」といった謝罪文や反省文になっていませんか?これは自分の身を守る上では逆効果になることがあります。

レポートの本来の目的は「再発防止」です。感情的な反省ではなく、客観的な事実と分析を記載しましょう。具体的には以下のポイントを意識してください。

インシデントレポート作成のポイント

  • 事実:「いつ、どこで、何を、どう間違えたか」を5W1Hで淡々と書く。
  • 要因:「注意不足」で片付けず、「電話対応と重なった」「類似薬品が隣にあった」「処方箋の記載が紛らわしかった」など、環境要因を具体的に挙げる。
  • 対策:「次は気をつける」ではなく、「薬品の配置を変える」「注意喚起のシールを貼る」など、具体的な行動計画を書く。

このように書くことで、「私は再発防止に向けて建設的に取り組んでいる」という姿勢を示すことができます。また、環境要因を記録に残しておくことは、万が一の責任追及の際に「個人の過失だけではない」という証拠にもなり得ます。

過去の重大判例から学ぶ「疑義照会」の重要性

過去の判例を知ることは、リアルなリスク回避に直結します。特に有名なのが「ウブレチド誤投薬事件」です。医師が倍量処方したことに薬剤師が気づかず(あるいは疑義照会せず)調剤し、患者さんが死亡した事案です。

この裁判では、医師だけでなく薬剤師にも禁錮刑(執行猶予付き)の有罪判決が下されました。判決では「薬剤師は処方箋の記載をただ漫然と実行するのではなく、専門的知識に基づいて疑問があれば確認する高度な注意義務がある」とされました。つまり、「医師の指示通りに出した」は言い訳にならないのです。

高圧的な医師への疑義照会は勇気が要るものです。「怒られるかもしれない」という心理的ハードルもあるでしょう。しかし、怒られることと、前科がつくこと、どちらが恐ろしいでしょうか?この判例を教訓に、「自分の身を守るためにも、怪しいと思ったら絶対に電話する」という覚悟を持つことが、結果として患者さんも自分も救うことになります。

筆者

「疑義照会して怒られたらどうしよう」と悩む薬剤師さんは多いですが、裁判官は「怒られても確認すべきだった」と判断します。自分の人生を守るために、受話器を取りましょう。

責任の重さに押しつぶされそうな薬剤師への処方箋

法的な話や対策を聞いても、「やっぱり怖い」「もう限界」と感じる方もいるでしょう。その感情は決して間違いではありません。責任の重さに押しつぶされそうなときに、どう心を整えればいいのかをお話しします。

「責任が重すぎて辞めたい」は甘えではない理由

「みんな頑張っているのに、私だけ弱音を吐いてはいけない」と思っていませんか?はっきり言いますが、人の命に関わる仕事のプレッシャーに耐えられなくなるのは、あなたが真面目で責任感が強い証拠であって、甘えではありません。

適当に仕事をしている人は、そもそも恐怖を感じません。「何かあったらどうしよう」と真剣に悩める人こそ、本来は薬剤師に向いている資質なのですが、それが過度なストレスになってメンタルを壊してしまっては元も子もありません。自分の限界を認め、逃げる(環境を変える)ことも立派な自己管理の一つです。

インシデントが多い薬剤師の特徴と改善アプローチ

調剤中にインシデントを頻発してしまい、カウンターで頭を抱える薬剤師。確認のしすぎで焦り、ミスを繰り返す悪循環から抜け出す改善策を模索している様子。

もしあなたが頻繁にインシデントを起こしていて悩んでいるなら、もしかすると「確認強迫」のような状態に陥っているかもしれません。「さっき確認したはずなのに不安で仕方ない」と何度も見返し、結果として時間がなくなって焦り、別のミスを誘発する悪循環です。

この場合、個人の努力で改善するのは困難です。心療内科を受診するという選択肢もありますし、一時的に調剤業務から離れる(ドラッグストアのOTC担当や企業の学術職など)ことも検討してみてはいかがでしょうか。調剤だけが薬剤師の仕事ではありません。

リスクとリターンの不均衡:年収と責任が見合っていない場合の考え方

冷静に考えてみてください。数千万円の賠償リスクや逮捕のリスクを背負いながら、手取り20数万円で働かされているとしたら、それは「リスクとリターン」が見合っていると言えるでしょうか?

「こんなに責任が重いのに、給料はこれだけ?」という不満は、仕事へのモチベーションを著しく下げ、集中力の低下を招きます。もし今の職場が、あなたの負っているリスクに見合った対価(給与や休日、福利厚生)を払っていないと感じるなら、それは転職を考える正当な理由になります。

項目 一般的な調剤薬局 リスクに見合った好条件薬局
年収 400〜500万円 600万円以上(管理薬剤師等)
リスク対策 個人努力頼み 最新鑑査システム完備
精神的負担 常に不安 システムと保険で守られている安心感

安心して働ける職場への脱出:インシデントが少ない薬局の選び方

「ミスをするのは自分が悪いのではなく、環境が悪いのかもしれない」。そう気づいたなら、次は「安全な環境」を探す番です。世の中には、驚くほどインシデントが少ない、あるいは起きても大事に至らない仕組みができている薬局が存在します。

医療安全システム(監査機器)が充実している薬局の特徴

最新のテクノロジーへの投資を惜しまない薬局を選びましょう。具体的には以下の設備が導入されているかどうかが、その薬局の「安全への本気度」を示しています。

  • 散剤・水剤監査システム:秤量ミスをバーコードと重量で自動検知するシステム。粉薬のミスは発見が難しいため必須です。
  • 全自動PTP払い出し装置(ロボット):ピッキングミスを物理的に防ぎます。
  • 電子薬歴と連動した監査システム:相互作用や禁忌を自動チェックしてくれます。

面接や職場見学の際には、遠慮なく「どのような監査システムを導入されていますか?」と質問してください。まともな薬局なら自慢げに説明してくれるはずです。

人員配置と休憩時間にゆとりがある職場の見極め方

ハードウェアだけでなく、ソフトウェア(働き方)も重要です。一人当たりの処方箋枚数は、法的には「40枚で薬剤師1人」ですが、これはあくまで最低ライン。実際には「25〜30枚で1人」くらいの配置でないと、余裕を持った安全管理は不可能です。

また、事務スタッフの人数も重要です。ピッキングや入力を事務さんが優秀にこなしてくれる職場なら、薬剤師は監査と投薬に集中でき、ミスは激減します。見学時には「調剤室の雰囲気(殺伐としていないか)」「薬剤師が走り回っていないか」をチェックしましょう。

転職エージェントを活用して「安全対策」を確認する方法

職場の安全性に悩む薬剤師へ、転職エージェントの活用を勧める筆者のアイコン。薬剤師のキャリアと心を守るため、勇気を出して新しい職場を探すことの重要性を伝えている。

とはいえ、面接で「御社のインシデント件数は?」とは聞きにくいものです。そんな時こそ、転職エージェントを使い倒しましょう。彼らは各薬局の内情に詳しいですし、聞きにくい質問を代行してくれます。

「過去に調剤過誤でトラブルになった際、会社はどう対応しましたか?」「監査システムの導入状況を詳しく知りたい」といった条件を伝え、それに合致する薬局だけを紹介してもらうのが、最も効率的で安全なルートです。

筆者

今の環境で苦しみ続ける必要はありません。世の中には「薬剤師を守ること」を最優先にしているホワイトな薬局も必ず存在します。一歩踏み出す勇気が、あなたのキャリアと心を守ります。

よくある質問(Q&A):薬剤師のインシデント責任に関する疑問解消

職場の安全性に悩む薬剤師へ、転職エージェントの活用を勧める筆者のアイコン。薬剤師のキャリアと心を守るため、勇気を出して新しい職場を探すことの重要性を伝えている。

Q. インシデントを起こしたら行政処分で免許停止になりますか?

A. 健康被害がない「インシデント(ヒヤリハット)」レベルであれば、行政処分の対象にはなりません。行政処分(免許停止や取消)は原則として、重大な過失により死傷事故を起こし、刑事罰を受けた場合などに検討されるものです。

Q. 薬局の社長から損害賠償を全額請求すると言われました。払う必要はありますか?

A. 原則として全額を支払う必要はありません。法律上「報償責任の法理」により、利益を得ている事業者がリスクも負担すべきとされています。従業員に重過失(わざと、に近い重大な不注意)がない限り、全額請求が認められることは稀です。不当な請求には労働基準監督署や弁護士へ相談してください。

Q. 投薬後にミスに気づきました。どうすればいいですか?

A. 恐怖を感じるでしょうが、直ちに患者へ連絡し、服用を止めて回収・交換してください。隠蔽して後に健康被害が出た場合、責任は甚大になります。「誠実な事後対応」が法的責任を軽減し、患者さんとの信頼を繋ぎ止める唯一の方法です。

Q. 管理薬剤師ですが、部下のミスはどこまで自分の責任になりますか?

A. 管理監督責任を問われる可能性はありますが、無制限ではありません。「適切な指導を行っていたか」「過誤防止の体制を作ろうとしていたか」が証明できれば、法的責任は限定的です。日頃から指導記録を残しておくことが自衛になります。

Q. 自分のミスが怖くて眠れません。どうすればいいですか?

A. 過度な不安は業務パフォーマンスを下げ、更なるミスを招く悪循環になります。一人で抱えず、心療内科の受診や、プレッシャーの少ない職場(企業、監査システム充実店など)への転職を検討してください。あなたの健康より大切な仕事はありません。

Q. 転職活動で過去のインシデント歴はバレますか?

A. 原則としてバレません。前職調査を行う企業は稀ですし、個人情報保護の観点から前職が詳細を漏らすことはリスクがあるためです。面接で自ら話す必要もありませんので、新たな気持ちでリスタートしてください。

薬剤師 インシデント 責任:まとめ

この記事では、薬剤師がインシデントや調剤過誤を起こした際の責任と、自分を守るための対策について解説してきました。最後に要点を振り返ります。

  • 薬剤師の責任は「民事・刑事・行政」の3つに分かれ、それぞれ独立している
  • 民事賠償は原則として「使用者責任」により薬局側が負うケースが多い
  • インシデント(健康被害なし)であれば、法的処罰の対象にはならない
  • ミスは「個人の不注意」ではなく「職場のシステム不備」が主原因であることが多い
  • 監査システムがなく人員不足の薬局は、あなたの免許を危険に晒す「ブラック薬局」の可能性がある
  • 自分を守るために「薬剤師賠償責任保険」への個人加入を検討する
  • インシデントレポートは反省文ではなく、環境改善の提案書として書く
  • 「疑義照会」は自分の法的責任を回避するための最重要業務である
  • 責任の重さに耐えられないなら、安全対策が万全な職場への転職も立派な選択肢
  • 管理薬剤師も会社に対して改善要求を出すことで、自身の監督責任リスクを減らせる
  • 不安なときは一人で抱え込まず、専門家やエージェントに相談する
  • あなたの人生と健康は、仕事の責任よりも優先されるべきものである
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