「スポーツファーマシストに興味があるけれど、取っても需要がないって本当?」
「今の薬局業務にマンネリを感じていて、何か資格を取りたいけれど、時間とお金の無駄にはしたくない……」
調剤薬局で日々同じ業務を繰り返していると、ふと「このままでいいのだろうか」と不安になる瞬間がありますよね。テレビで活躍するアスリートを支えるスポーツファーマシストの姿は、閉塞感のある日常を打破する「希望の光」に見えるかもしれません。
しかし、インターネットで検索すると「スポーツファーマシスト 需要ない」「食えない」「意味ない」といったネガティブな言葉が並び、足踏みしてしまう方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、スポーツファーマシストの資格だけで「食べていく」ことは極めて困難であり、転職市場での直接的な需要も限定的です。しかし、だからといって「取る価値がない」と切り捨てるのも早計です。
この記事では、元薬剤師の視点から、きれいごと抜きの「リアルな需要」と「コスト対効果」、そして資格を活かすための「賢いキャリア戦略」について詳しく解説します。あなたが後悔のない選択をするための一助となれば幸いです。
私も現役時代、資格マニアになりかけた時期がありました。「何か武器を持たなきゃ」と焦る気持ち、痛いほどわかります。まずは冷静にデータを紐解いていきましょう。
この記事で分かること
- 「需要がない」と言い切れる具体的なデータと根拠
- 資格取得にかかるリアルな費用と維持の労力
- ボランティアが前提となる活動の実態とリスク
- それでも資格を活かしたい人が選ぶべき職場環境
データで直視する「スポーツファーマシスト需要ない」の真実
まずは感情論ではなく、客観的な数字に基づいて「需要」の正体を見ていきましょう。なぜここまで「需要がない」と言われるのか、その背景には圧倒的な「需給ギャップ」が存在します。資格認定を行っている日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の活動により知名度は上がりましたが、それが「職業」としてのパイ拡大には繋がっていないのが現状です。
認定者数1.5万人に対し「専任求人」はほぼゼロという現実
スポーツファーマシストの認定者数は、制度が開始された2009年の796名から急増し、2022年時点で約12,000名を超え、現在では推計で1.3万〜1.5万人規模に達していると考えられます。10数年で約15倍以上に膨れ上がった計算になります。
一方で、プロスポーツチームや競技団体の数はどうでしょうか。日本国内のトップリーグや実業団の数が15倍になったわけではありません。つまり、「支えたい薬剤師(供給)」だけが爆発的に増え、「支えてほしいチーム(需要)」は微増にとどまっているのです。
さらに厳しい現実として、この1.5万人の中で「スポーツファーマシスト専任」として給料をもらっている人は、ほんの一握りです。多くの資格保有者は、普段は調剤薬局やドラッグストアで通常業務を行いながら、休日にボランティアとして活動しています。「資格を取ればスポーツの仕事ができる」という期待は、この数字の前に脆くも崩れ去ります。
もしあなたが「今の職場を辞めて、スポーツファーマシストとして転職したい」と考えているなら、その求人倍率は数百倍、あるいは数千倍の難関であることを覚悟しなければなりません。
実際に求人サイトを検索してわかった「募集なし」の絶望感
「需要がないと言っても、探せばあるのでは?」そう思う方もいるでしょう。実際に大手転職サイトやエージェントで「スポーツファーマシスト」というキーワードを含めて検索をかけてみると、その結果は残酷なものです。
ヒットする求人の大半は、以下のようなものです。
| 求人タイプ | 実態 | スポーツ業務の割合 |
|---|---|---|
| 一般的な調剤薬局 | 「資格手当なし」「活動は公休日にどうぞ」 | ほぼ0%(通常業務のみ) |
| ドラッグストア | 「健康相談の一環として知識が活かせます」 | 5%未満(サプリ相談程度) |
| スポーツ整形門前 | 「ドクターとの連携あり」※非常にレア | 10〜20%(処方監査など) |
| プロチーム専属 | 公募は皆無(コネクション採用のみ) | 100% |
このように、「スポーツファーマシスト募集」と銘打っていても、実態は「普通の薬剤師業務」であり、資格はあくまで「おまけ」扱いです。企業側としても、診療報酬に直結しない資格に対して、高い給与を払うメリットが見出しにくいのが本音です。
実際、マイナビ薬剤師の解説ページでも、「転職で有利になるケースはあまり多くない」と明記されています。大手エージェントが公式に「有利ではない」と認めている点は、非常に重い事実として受け止める必要があります。
「資格があれば特別扱いされるかも」という淡い期待は捨てた方が賢明です。むしろ採用担当者からは「現場に出たがる扱いづらい人」と見られるリスクすらあります。
なぜ「食えない」のか?スポーツファーマシストが稼げない構造的理由
「需要がない」だけでなく、そもそもビジネスモデルとして「稼げない」構造になっている点も見逃せません。薬剤師の給与原資の多くは調剤報酬ですが、スポーツファーマシストの活動はこの枠組みから外れていることが多いのです。
診療報酬に直結しない「ボランティア」ベースの活動実態
がん薬物療法認定薬剤師や、糖尿病薬物療法認定薬剤師などの資格は、取得することで病院や薬局が算定できる加算(点数)が増えるケースがあります。これは経営者にとって直接的な利益となるため、資格手当や昇給の交渉材料になり得ます。
しかし、スポーツファーマシストの主な活動である「アンチ・ドーピング相談」や「学校での講演」「大会での救護」には、明確な診療報酬点数がついていません(学校薬剤師としての報酬は別途ありますが、微々たるものです)。
結果として、活動の多くは以下のようになります。
- 国体・地域のマラソン大会: 交通費支給のみ、または無償ボランティア
- 学校での講演: 寸志程度
- 個人のアスリート相談: 友人・知人ベースで無償対応
「やりがい」はあっても「お金」にはならない。これが、スポーツファーマシストだけで生計を立てることが不可能と言われる最大の理由です。生活がかかっている20代〜40代の働き盛りの薬剤師にとって、「稼げない資格」に時間と労力を投資する余裕があるのか、冷静な判断が求められます。
薬局経営者から見た「コスト」と「リスク」の不都合な真実

経営者の視点に立つと、さらに厳しい現実が見えてきます。従業員がスポーツファーマシストの資格を持っていることは、薬局にとってメリットばかりではありません。
例えば、国体の帯同や講習会への参加で、土日や平日に休みを申請されるとします。ギリギリの人員で回している薬局では、その穴埋めに派遣薬剤師を雇うコストが発生します。売上に貢献しない活動のために、なぜ会社がコストを負担しなければならないのか。そう考える経営者がいても不思議ではありません。
また、「うっかりドーピング」のリスクも無視できません。もし自局の薬剤師がアドバイスを誤り、選手がドーピング陽性になってしまった場合、薬局全体の信用問題に関わります。なの花薬局のコラムでも触れられていますが、その責任の重さは計り知れません。
「収益生まない」「シフト調整が面倒」「リスクがある」という三重苦を抱えた資格を、積極的に評価してくれる職場がいかに稀有であるか、想像に難くありません。
「会社が理解してくれない」と嘆く前に、会社のメリットがないことを理解する必要があります。その上で活動するには、相応の覚悟か、理解ある特別な職場が必要です。
それでも取得する価値はある?メリットとデメリットを徹底比較

ここまで厳しい現実ばかりをお伝えしましたが、それでも1.5万人もの薬剤師が資格を維持しているのは、それ以上の「価値」を感じているからです。金銭的なリターン以外の部分に目を向けて、メリットとデメリットを整理してみましょう。
| 項目 | メリット(得られるもの) | デメリット(失うもの・リスク) |
|---|---|---|
| キャリア | 薬剤師としての職能の幅が広がる 一部の整形外科門前などで評価対象になる |
一般的な転職市場ではほぼ評価されない 「意識高い系」と敬遠される可能性も |
| 精神面 | アスリートを支えるという純粋なやりがい 社外の薬剤師仲間とのコミュニティ形成 |
ボランティア活動への疲弊 自身の責任に対する重圧とプレッシャー |
| 知識 | サプリメントや最新薬学の知識が深まる 自身の健康管理にも役立つ |
常に最新の禁止表を追う学習コスト 毎年更新されるルールの複雑さ |
| コスト | 特になし(自己投資としての満足感) | 4年ごとの更新料、毎年の講習受講 活動に伴う交通費等の持ち出し |
【メリット】やりがいと薬剤師としての職能拡大
最大のメリットは、やはり「やりがい」です。自分がアドバイスした選手が大会で活躍したり、怪我から復帰したりする姿を見るのは、調剤室に籠もっていては味わえない感動があります。また、公認スポーツファーマシスト認定制度概要にもある通り、最新のアンチ・ドーピング規則を学ぶことは、薬の作用機序や代謝を深く理解することに繋がり、通常の服薬指導の質も向上させます。
また、地域の薬剤師会活動などを通じて、横のつながりができることも財産です。閉鎖的な薬局業界において、志の高い仲間と出会える場は貴重です。
【デメリット】年間維持費と更新の手間、法的リスク
一方で、デメリットは「維持の大変さ」と「責任」です。特に「うっかりドーピング」への恐怖は常に付きまといます。市販の風邪薬や漢方薬(麻黄など)、のど飴ひとつにも禁止物質が含まれている可能性があり、「大丈夫です」と言い切るには膨大な知識と確認作業が必要です。
もし誤った情報を伝えてしまい、選手の選手生命を絶ってしまったら……。損害賠償請求のリスクもゼロではありません。報酬がないのに責任だけが重いという「ハイリスク・ノーリターン」な側面に耐えられるメンタルが求められます。
「何となくカッコいいから」で取ると、毎年のe-ラーニングと更新手続きの煩雑さで挫折します。事実、更新せずに資格を失効させる人も少なくありません。
資格取得にかかる費用と労力(コストパフォーマンス分析)
「投資対効果(ROI)」を重視する方のために、具体的にお金と時間がどれくらいかかるのかを試算しました。「会社が出してくれるだろう」と期待していると、痛い目を見るかもしれません。
初期費用3万円と4年ごとの更新料・eラーニングの負担
スポーツファーマシストの資格は、一度取れば一生有効なものではありません。取得時だけでなく、維持にもコストがかかります。
| 項目 | 費用(税込) | 備考 |
|---|---|---|
| 受講料(新規) | 9,900円 | テキスト代含む(基礎講習・実務講習) |
| 認定料(新規) | 22,000円 | 認定期間4年分 |
| 初期合計 | 31,900円 | 交通費・宿泊費は別途 |
| e-ラーニング | 無料(受講必須) | 毎年受講しないと更新要件を満たせない |
| 更新認定料 | 22,000円 | 4年ごとに発生 |
単純計算で、4年間で約54,000円〜(更新時)の維持費がかかります。これに加え、学習に費やす時間コストも馬鹿になりません。これだけのコストを「個人の趣味」として割り切って支払えるか、それとも「給料アップの投資」と考えるかで、評価は大きく分かれます。
他の認定薬剤師資格(がん・在宅)とのコスパ比較

キャリアアップを目的とするなら、他の資格と比較検討することも重要です。
- がん薬物療法認定薬剤師: 取得難易度は高いが、病院でのニーズが高く、専門薬剤師手当などのリターンが期待できる。
- 在宅療養支援認定薬剤師: 今後の高齢化社会で確実に需要が増し、地域支援体制加算などの算定要件に関わるため、薬局からの評価が高い。
- スポーツファーマシスト: 難易度は比較的低いが、直接的な金銭的リターンはほぼゼロ。
「稼ぐこと」や「待遇改善」が目的なら、スポーツファーマシストはコストパフォーマンスが悪いと言わざるを得ません。他の「食える資格」を目指すか、あるいは資格に頼らない方法を模索すべきです。
現状を変えたいあなたへ。資格に頼らないキャリア再構築のすすめ
ここまで読んで、「やっぱりスポーツファーマシストはやめておこうか」と思った方もいるかもしれません。あるいは、「それでもやりたい!」と決意を新たにした方もいるでしょう。
どちらにせよ、今あなたが抱えている「現状の閉塞感」や「将来への不安」を解決する手段は、資格取得だけではありません。むしろ、環境を変えることの方が、即効性があり確実な解決策となるケースが多いのです。
「スポーツ整形門前」など理解ある職場への転職という選択肢
もし本気でスポーツファーマシストとして活動したいなら、今の職場で理解を得ようと戦うよりも、最初から「活動を応援してくれる職場」に移るのが近道です。
公には募集していなくても、転職エージェントは以下のような「非公開求人」を持っている可能性があります。
狙い目の職場・求人例
- スポーツ整形外科の門前薬局: ドクターと連携し、アスリートの処方に携われる可能性が高い。
- 地域貢献を掲げる大手ドラッグストア: CSR活動の一環として、スポーツイベントへの参加を業務として認めている場合がある。
- 公的病院の薬剤部: 国体強化選手のサポートなどに関われるチャンスがある。
こうした求人は、通常の検索では出てきません。転職エージェントに登録し、「スポーツファーマシストの活動に理解がある職場」「整形外科の門前」と条件を絞ってリクエストすることで、初めて出会えるプラチナチケットです。
働きやすさを確保してボランティア活動を充実させる方法
もう一つの考え方は、「仕事は仕事、スポーツ活動はライフワーク」と完全に分けることです。
今の職場が「残業が多い」「有給が取れない」「土日出勤が当たり前」という環境なら、スポーツファーマシストの活動など夢のまた夢です。まずは、「残業なし」「土日休み」「年収アップ」が叶うホワイトな職場へ転職し、生活の基盤を整えましょう。
時間と心に余裕ができれば、平日の夜に勉強したり、休日に地域のスポーツ大会にボランティア参加したりすることも苦になりません。資格を「食うための道具」にするのではなく、「人生を豊かにする趣味」として楽しむ。そのためには、何よりもまず「働きやすい環境」を確保することが先決です。
「資格さえ取れば人生が変わる」というのは幻想です。でも、「環境を変える」ことは確実にあなたの人生を変えます。まずは今の働き方を見直すことから始めてみませんか?
Q. スポーツファーマシストの年収は上がりますか?
A. 残念ながら、基本的に上がりません。診療報酬上の加算がないため、資格手当を支給する薬局は極めて稀です。年収アップを目指すなら、資格取得よりも管理薬剤師への昇格や、待遇の良い職場への転職の方が確実です。
Q. スポーツファーマシストの資格だけで食べていけますか?
A. 不可能です。プロチームの専属契約などはごく一部のコネクションがある人に限られます。99%以上の認定者は、通常の薬剤師業務で生計を立てながら、副業やボランティアとして活動しています。
Q. 認定試験の難易度はどれくらいですか?
A. 薬剤師国家試験を通過した知識があれば、講習をしっかり受講することで十分に合格可能なレベルです。落とすための試験ではなく、必要な知識を確認するための試験という位置づけです。
Q. どのような活動場所がありますか?
A. 国体やマラソン大会の救護所、学校薬剤師としての講演、地域のスポーツイベントでの相談ブース、所属薬局での患者対応などです。多くは都道府県薬剤師会を通じて募集されます。
Q. 更新を忘れたらどうなりますか?
A. 資格は失効します。再取得するには、再度新規受講からやり直す必要があり、費用も時間もかかります。4年ごとの更新手続きと毎年のe-ラーニングは必須です。
Q. 漢方薬はドーピングになりますか?
A. なる可能性があります。特に「麻黄(エフェドリン)」や「ホミカ(ストリキニーネ)」を含む漢方薬は禁止されています。漢方は成分が複雑なため、アスリートには原則使用を控える、あるいは代替薬を提案するのが安全なアプローチとされています。
まとめ:スポーツファーマシストは「需要ない」と割り切り、働き方を見直すきっかけにしよう
記事のポイントをまとめます。
- スポーツファーマシストの専任求人はほぼゼロであり、資格だけで食べていくことは不可能
- 認定者数は1.5万人まで増加したが、活動の場はボランティアが中心
- 診療報酬につながらないため、薬局側からの評価や昇給は期待しにくい
- 維持費や更新の手間、うっかりドーピングのリスクなど、コストと責任は重い
- それでも「やりがい」や「職能拡大」を目指すなら取得する価値はある
- 本気で活動したいなら、「スポーツ整形門前」などの非公開求人をエージェント経由で探すべき
- 今の職場が忙しすぎるなら、まずは土日休みや残業なしの「ホワイトな職場」への転職が先決
- 資格を「逃げ道」にするのではなく、キャリア戦略の一部として冷静に判断することが大切
- 「需要がない」という現実は変えられないが、自分の「働き方」は変えられる
- まずは転職サイトで情報収集をし、自分の市場価値と可能性を確認してみよう
- 資格取得は、生活基盤を安定させてからでも遅くはない
- あなたが笑顔で働ける環境こそが、最高のキャリアである
