「今日もまた、閉店後のレジ締めと薬歴記入で2時間の残業……」
「このまま定年まで、毎日立ち仕事を続けていけるのだろうか?」
調剤薬局で働いていると、患者様の対応に追われ、自分の時間は二の次になってしまうことが日常茶飯事です。ふと、「企業薬剤師なら、オフィスで定時に帰れて、土日も休めるのではないか」と憧れを抱く瞬間があるのではないでしょうか。
私自身も調剤薬局での勤務経験が長いため、その「終わりの見えない拘束感」や、閉鎖的な人間関係への疲れは痛いほどよく分かります。しかし、一概に「企業=残業なし」と言い切れないのが現実であり、職種選びを間違えると、薬局以上に激務な環境に身を置くことになりかねません。
この記事では、漠然としたイメージで語られがちな「企業薬剤師の残業実態」について、具体的な職種ごとのデータや現場の裏事情を交えて解説します。あなたが理想とする「自分らしい働き方」を見つけるための判断材料として、ぜひ参考にしてみてください。
「企業=楽」という思い込みは危険です。しかし、戦略的に職種を選べば、驚くほどホワイトな環境があるのも事実ですよ。
この記事で分かること
- 厚生労働省データに基づく薬剤師のリアルな残業時間
- 「残業ほぼゼロ」が狙える企業薬剤師の具体的な職種
- 企業へ転職する際の年収ダウンのリスクと対策
- 失敗しない「隠れホワイト求人」の見極め方
薬剤師の残業時間は平均10時間?データと現場のギャップ
「薬剤師の残業は月平均10時間程度」というデータをよく目にしますが、現場で働く皆さんの感覚とは少しズレがあるのではないでしょうか。実際、門前の医療機関の診療状況や、季節ごとの繁忙期、さらには「サービス残業」の有無によって、体感する拘束時間は大きく異なります。
ここではまず、公的な統計データと、現場で起きている「構造的な長時間労働」の現状を整理し、なぜ私たちがこれほどまでに「時間がない」と感じてしまうのか、その根本原因を深掘りしていきます。
統計データが示す「平均」と実態の乖離
厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」などのデータを見ると、薬剤師の月間超過実労働時間(残業時間)は平均して約10時間とされています。この数字だけを見れば、「1日30分程度ならホワイトだ」と感じるかもしれません。実際、このデータは就職活動中の学生や、他業界の人々に対して「薬剤師は働きやすい」という印象を与えるためによく引用されます。
しかし、この「10時間」という数字には注意が必要です。これはあくまで「企業側が申告した(=残業代として支払われた)時間」の平均であり、いわゆる「サービス残業」や「持ち帰り残業」が含まれていない可能性が高いからです。また、病院、調剤薬局、ドラッグストア、企業など、働き方の異なるすべての職種をならした平均値であるため、過酷な現場の数字が薄められている側面も否定できません。
例えば、ドラッグストア勤務の場合、店舗の営業時間が夜22時や24時まで及ぶことが多く、シフト制とはいえ生活リズムが崩れがちです。一方で、企業の管理薬剤師のように定時退社が基本の職種も存在します。これらを一緒くたにした「平均」にとらわれすぎると、転職後のミスマッチを招く原因となります。
具体的なデータについては、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」などで詳細を確認することができますが、重要なのは「あなたの希望する職場がどうなのか」という個別具体的な視点を持つことです。平均値はあくまで参考程度に留め、実態を見極める目を養いましょう。
調剤薬局で残業が発生してしまう「3つの構造的要因」
なぜ、調剤薬局の薬剤師は残業から逃れられないのでしょうか。最大の要因は「対人業務の予測不能性」にあります。どれだけ効率よく業務を進めていても、閉店間際に駆け込んでくる患者様がいれば、断ることはできません。また、疑義照会で医師と連絡がつかない場合、処方変更の確認が取れるまで待機せざるを得ないという、他律的な要因で拘束時間が伸びてしまいます。
次に挙げられるのが「事務作業の肥大化」です。特に「薬歴未記載問題」がコンプライアンス上の大きな課題となって以降、薬歴記入に求められる質と量は年々増加しています。しかし、営業時間中は投薬や監査に追われ、落ち着いてパソコンに向かう時間が取れません。結果として、患者様が帰った後の「残業時間」を使って、ようやくその日の薬歴をまとめるという本末転倒な働き方が常態化しています。
さらに、中小規模の薬局で深刻なのが「人員配置の硬直性」です。いわゆる「一人薬剤師」の店舗では、休憩時間さえままならないケースがあります。「自分が休めば店が回らない」という責任感から、体調不良でも無理をして出勤し、事務作業を残業でカバーするという悪循環に陥っている方も多いのではないでしょうか。
このような構造的な問題は、個人のスキルアップや努力だけでは解決が困難です。「仕事が遅いから残業になる」と自分を責める必要はありません。これは業界全体が抱えるシステムの問題であり、環境を変える(=企業薬剤師などを検討する)ことが、最も合理的な解決策の一つとなるのです。
| 職場タイプ | 平均残業(月) | 残業の主な原因 | 休みの取りやすさ |
|---|---|---|---|
| 調剤薬局 | 10〜30時間 | 患者対応、薬歴記入、予製 | △ (店舗人数による) |
| ドラッグストア | 20〜40時間 | 長時間営業、OTC接客、品出し | △ (シフト制・土日出勤) |
| 病院 | 10〜30時間 | 委員会、勉強会(自己研鑽扱い) | ○ (当直明けなど調整可) |
| 企業(一部職種) | 0〜20時間 | プロジェクト納期、突発対応は少 | ◎ (土日祝休みが基本) |
「企業なら残業なし」は誤解!職種別のリアルな実態
「企業薬剤師に転職すれば、定時で帰れてバラ色の生活が待っている」……そう考えているなら、少し立ち止まって確認が必要です。「企業薬剤師」と一口に言っても、その職種は多岐にわたり、残業事情はまさに「天と地ほどの差」があります。
ここでは、一般的に企業薬剤師として募集されている職種ごとの、リアルな残業事情を解説します。「隠れホワイト」な職種から、高収入だけど激務な職種まで、その実態を解剖していきましょう。
【狙い目】物流センター・倉庫業の管理薬剤師
もしあなたが「とにかく残業を減らしたい」「プライベートの時間を確保したい」と強く願っているなら、最もおすすめなのが医薬品卸や物流センター、倉庫業の管理薬剤師です。この職種の残業時間は、月0〜5時間程度と極めて少ないのが特徴です。
主な業務内容は、倉庫内の医薬品の温度管理、在庫管理、毒劇物の保管状況チェック、そして薬機法などの法規遵守の確認です。物流センターは配送スケジュールがきっちりと決まっているため、突発的な業務が発生しにくく、定時になればスパッと業務が終了します。患者対応がないため、対人ストレスが少ないのも大きなメリットと言えるでしょう。
ただし、デメリットとしては「薬剤師としての臨床知識」を使う場面が少ないことや、キャリアパスが限定的になりがちな点が挙げられます。また、倉庫という立地上、勤務地が駅から遠い湾岸エリアや郊外になることも多いため、通勤手段の確認は必須です。それでも、「ワークライフバランス最強」の職種であることは間違いありません。
知名度が低く、新卒ではあまり選ばれない職種ですが、中途採用では「静かな環境でコツコツ働きたい」という層に密かな人気があります。求人数は決して多くありませんが、見つけたら即応募を検討すべき「穴場」求人と言えます。
【激務注意】CRA(臨床開発モニター)とMR

一方で、企業薬剤師の中でも「残業が多い」「体力勝負」と言われるのが、製薬会社のMR(医薬情報担当者)や、開発職であるCRA(臨床開発モニター)です。これらの職種は年収が高いことで知られていますが、その分、拘束時間は長くなる傾向にあります。
MRの場合、医師のアポイントに合わせて動くため、早朝の勉強会や夜間の接待(現在は減りつつありますが)、講演会の立ち会いなどで、勤務時間が不規則になりがちです。「みなし労働時間制」が適用されることが多く、実質の労働時間は数字に表れにくい側面もあります。ただし、直行直帰が可能で、日中のスケジュールを自分でコントロールできる自由度はあります。
CRAは、治験を実施している医療機関への訪問が主な業務であり、全国への出張が頻繁に発生します。移動時間も含めると拘束時間は非常に長く、報告書の作成やデータの確認などで、月30時間以上の残業が発生することも珍しくありません。「新薬開発に携わる」という大きなやりがいはありますが、子育てとの両立などで悩む方も多い職種です。
「企業だから楽だろう」という安易な動機でこれらの職種を選ぶと、調剤薬局以上の激務に直面し、早期離職につながるリスクがあります。自身の体力や、仕事に対する価値観(やりがい重視か、時間重視か)を慎重に見極める必要があります。
同じ「企業」でも、倉庫管理と開発職では別の職業といっていいほど働き方が違います。「残業なし」を最優先するなら、職種選びで9割が決まると言っても過言ではありません。
【バランス型】DI(学術)・薬事申請・デスクワーク系
デスクワーク中心で、比較的ワークライフバランスを取りやすいのが、DI(ドラッグインフォメーション)や学術、薬事申請といった職種です。基本的には本社勤務の内勤となり、カレンダー通りの土日祝休みが確保されているケースが大半です。
DI業務は、医師や薬剤師からの問い合わせ対応や、インタビューフォームの作成などが主な仕事です。コールセンター的な役割の部署であれば、受付時間が決まっているため、残業は少なめ(月10〜20時間程度)に収まります。ただし、新薬の発売時期や、学会シーズンなどには資料作成で繁忙期を迎えることもあります。
薬事申請業務は、厚生労働省などの規制当局への申請書類を作成する専門職です。プロジェクト単位で動くため、申請の締め切り前は月40時間を超えるような残業が発生することもありますが、逆にプロジェクトが終われば長期休暇を取得しやすいなど、メリハリのある働き方が可能です。
これらの職種は、調剤薬局での臨床経験や知識を活かせる場面も多く、転職のハードルはMRや開発職に比べるとやや低めです。「薬剤師の知識を活かしつつ、オフィスワークに移行したい」という方にとって、最も現実的でバランスの取れた選択肢と言えるでしょう。
| 職種 | 残業レベル | 年収傾向 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| 倉庫管理薬剤師 | ほぼ無し (0-5h) |
450-550万 | ルーチンワーク中心。 臨床知識は使いにくい。 |
| DI・学術 | 少〜中 (10-20h) |
500-700万 | 知識を活かせる。 繁忙期はあるが調整可。 |
| 薬事・開発 | 時期による (20-40h) |
600-1000万+ | 専門性が高く高収入。 締切前は激務の可能性。 |
| MR・営業 | 多い・不明 (みなし) |
600-1000万+ | 成果主義。 数字のプレッシャーあり。 |
なぜ企業薬剤師は「突発的な残業」が少ないのか

多くの薬剤師が企業への転職を希望する背景には、「時間をコントロールできる働き方」への渇望があります。では、なぜ企業薬剤師(特に内勤系)は、調剤薬局に比べて残業時間をコントロールしやすいのでしょうか。
その理由は、単に「人が多いから」だけではありません。業務の性質そのものが、薬局とは根本的に異なるからです。ここでは、企業薬剤師が「定時で帰れる」構造的な理由を3つの視点から解説します。
「対患者」ではなく「対社内・対法人」の業務だから
調剤薬局の最大の不確定要素は「患者様」です。来局時間は予測できず、体調の悪い患者様を待たせるわけにはいきません。これに対し、企業薬剤師の主な相手は「社内の他部署」や「取引先企業」です。
社内業務であれば、会議の時間や資料の提出期限はあらかじめ決まっています。取引先との商談もアポイント制が基本です。つまり、自分のスケジュール帳で業務を管理・調整することが可能なのです。「今日は定時で帰りたいから、この資料は明日の午前中にやろう」という裁量が、自分自身に委ねられています。
もちろん、緊急のトラブル対応などがないわけではありません。しかし、毎日のように閉店間際に駆け込みがある薬局とは異なり、突発的な事象の頻度は圧倒的に低くなります。この「予測可能性」の高さこそが、精神的な余裕と残業削減に直結しているのです。
例えば、DI業務でお客様相談室に配属された場合でも、電話受付時間は「9:00〜17:00」のように明確に区切られています。17時を過ぎれば電話は鳴り止み、残りの時間で記録をまとめて退社するというリズムが確立されています。
「薬歴地獄」からの解放と業務の効率化
現役薬剤師の皆さんにとって、残業の最大の元凶とも言えるのが「薬歴記入」ではないでしょうか。投薬が終わった後、記憶を頼りにSOAPを書き続ける作業は、精神的にも肉体的にも大きな負担です。企業薬剤師になれば、この「薬歴」という業務そのものが存在しません。
企業でももちろん報告書や議事録、申請書類などのドキュメント作成業務はあります。しかし、これらは「業務時間の合間に行うもの」ではなく、「業務そのもの」として就業時間内にスケジュールされています。「投薬の合間に急いで書く」のではなく、「午前中は資料作成の時間」として確保できるため、集中して効率よく進めることができます。
また、企業は利益追求のために業務効率化(DX化)を積極的に進める傾向があります。古いレセコンや手書きの薬袋といったアナログな環境が残る薬局とは対照的に、最新のITツールやチャットツールが導入されていることが多く、無駄な作業が徹底的に削減されているのも、残業が少ない理由の一つです。
「薬歴さえなければ早く帰れるのに」と日々感じている方にとって、その業務自体がない環境は、まさに天国のように感じられるかもしれません。
企業薬剤師の働き方メリット
- 相手がビジネスパーソンなのでアポや期限の調整が効く
- 「薬歴」等の終わりの見えないルーチンワークがない
- 有給休暇をチーム内で計画的に取得しやすい
- 土日祝が完全に休みで、長期連休(GW・年末年始)がある
組織で働く強み:チーム制と代替可能性

小規模な調剤薬局では、薬剤師が一人または二人という体制も珍しくありません。誰かが休めば店が開けられないため、体調不良でも出勤せざるを得ず、残業も一人で抱え込むことになります。これが「属人化」による長時間労働の温床です。
一方、企業では基本的に「チーム」で動きます。一つのプロジェクトや業務を複数人で分担しているため、誰かが休んでも他のメンバーがフォローできる体制が整っています。「私がいないと回らない」というプレッシャーから解放され、有給休暇も罪悪感なく取得できる環境があります。
また、大手企業であれば、産休・育休の制度や、復帰後の時短勤務制度も整備されています。制度があるだけでなく、「実際に使っている人が多い」ため、取得しやすい雰囲気が醸成されているのも大きな特徴です。
このように、組織としてのバックアップ体制があることは、長期的に安心して働く上で非常に重要な要素です。自分一人で全てを背負い込む働き方に限界を感じているなら、組織で働く企業薬剤師への転身は、大きな解決策となるはずです。
転職前に知っておくべきリスクと「狭き門」の現実
ここまで企業薬剤師のメリットを中心にお伝えしてきましたが、光があれば影もあります。安易に転職を決意して、「こんなはずじゃなかった」と後悔することだけは避けなければなりません。
特に調剤薬局からの転職組が直面しやすい「年収の壁」や「求められるスキルの違い」、そして求人の少なさといった現実的なリスクについて、包み隠さず解説します。
初年度年収は下がる覚悟が必要
最も大きなハードルとなるのが「年収ダウン」です。調剤薬局やドラッグストアは、薬剤師手当が手厚く、初任給から比較的高水準(450〜600万円程度)で設定されています。しかし、企業薬剤師へ未経験で転職する場合、初年度の年収は400〜450万円程度まで下がることが一般的です。
これは、企業において薬剤師資格はあくまで「歓迎スキル」の一つであり、即戦力としてのビジネススキルがまだない「未経験者」として扱われるためです。特に、地方の高額求人(年収700万円〜など)で働いていた方にとっては、200万円近いダウン提示を受けることもあり、生活水準の見直しが必要になるレベルです。
ただし、悲観することばかりではありません。調剤薬局の年収カーブは、管理薬剤師になったあたり(600〜700万円)で頭打ちになることが多いのに対し、大手企業では昇進や昇格により、将来的には800万円、1000万円以上を目指せるポテンシャルがあります。
「目先の年収は下がっても、将来の伸び代とワークライフバランスを買う」という投資的な視点を持てるかどうかが、企業薬剤師への転職を成功させる鍵となります。
| 項目 | 調剤薬局・ドラッグストア | 企業薬剤師(未経験) |
|---|---|---|
| 初年度年収 | 高め (450〜600万円) | 低め (400〜500万円) |
| 昇給幅 | 小さい (役職手当のみ等) | 大きい (評価制度による) |
| 将来的な上限 | 700〜800万円程度 | 1000万円以上も可能 |
| 住宅手当 | 会社による (地方配属は厚い) | 大手は充実している傾向 |
一般には出回らない「非公開求人」の壁
「よし、企業薬剤師の求人を探そう」と思って大手転職サイトで検索しても、件数の少なさに驚愕するはずです。実は、企業薬剤師の求人は、そのほとんどが一般には公開されない「非公開求人」となっています。
なぜなら、製薬企業の新薬開発プロジェクトや、事業拡大に伴う増員募集は、競合他社に知られたくない極秘情報だからです。また、人気職種であるため、一般公開すると応募が殺到してしまい、人事担当者の選考工数がパンクしてしまうという事情もあります。
そのため、企業薬剤師の求人は、信頼できる特定の転職エージェントにのみこっそりと依頼されます。自分一人でハローワークや求人サイトを眺めていても、優良な企業求人に出会える確率は限りなくゼロに近いのが現実です。
この「情報の非対称性」を理解しておかないと、「求人が全然ないから無理だ」と諦めてしまうことになります。スタートラインに立つためには、情報を持っているプロ(エージェント)を味方につけることが必須条件なのです。
私も転職活動時は驚きましたが、企業の好条件求人は本当にネット検索では出てきません。エージェントに登録した途端、「実はこんな案件が…」と紹介されるのが業界の常識です。
「座っていればいい」わけではない厳しさ
「立ち仕事に疲れたからデスクワークがいい」という動機自体は否定しませんが、企業で求められるスキルセットは薬局とは全く異なります。パソコンスキル(Word、Excel、PowerPoint)は必須ですし、ビジネスメールの作法、プレゼンテーション能力、さらには英語力が求められることもあります。
また、企業は「成果」に対してシビアです。薬局では「処方箋通りに調剤すること」が正解でしたが、企業では「自ら課題を見つけ、改善案を出し、利益に貢献すること」が求められます。指示待ちの姿勢では評価されず、居心地が悪くなってしまうでしょう。
さらに、DI職や学術職では、常に最新の医学・薬学知識をアップデートし続ける必要があります。「薬局での勉強が大変だから」といって逃げてきても、企業ではそれ以上のスピードで学習が求められる場面もあります。肉体的な疲労は減りますが、知的・精神的なプレッシャーは別の形で存在することを理解しておく必要があります。
企業への転職で失敗しやすい人の特徴
- 「楽そうだから」という受動的な理由だけで選ぶ
- PC操作やビジネスマナーを学ぶ意欲がない
- 年収ダウンを許容できず、高望みしすぎる
- 変化を嫌い、新しい環境に適応しようとしない
失敗しない!「残業少なめ」ホワイト求人を見つける戦略
リスクを理解した上で、それでも「人間らしい生活を取り戻したい」と願うあなたのために、確実にホワイトな求人を見つけ出すための具体的な戦略をお伝えします。
求人票の表面的な情報だけに騙されず、企業の内部事情まで踏み込んで確認することが、後悔のない転職への最短ルートです。
転職エージェントを「情報収集ツール」として使い倒す

前述の通り、企業薬剤師の求人は非公開が基本です。まずはマイナビ薬剤師や薬キャリなどの大手エージェントに登録し、非公開求人へのアクセス権を手に入れましょう。しかし、ただ登録して待っているだけでは不十分です。
担当のエージェントには、以下のポイントを必ず確認してください。
「前任者の退職理由は何ですか?」
「配属部署の平均残業時間は、直近の実績で何時間ですか?」
「有給休暇の実際の取得率はどれくらいですか?」
優秀なエージェントであれば、企業の人事担当者と太いパイプを持っており、これらの「聞きにくい内部事情」を把握しています。逆に、これらの質問に答えられない、あるいは「入ってみないと分からない」とお茶を濁すようなエージェントからの紹介は、危険信号と捉えて良いでしょう。
また、労働時間に関する法的な知識も持っておくと安心です。例えば、時間外労働の上限規制(36協定)について理解しておけば、面接時に「御社の36協定における特別条項はどうなっていますか?」といった鋭い質問で、企業のコンプライアンス意識をチェックすることも可能です。
「派遣薬剤師」という裏技的選択肢
もし、あなたが「正社員」という雇用形態に強いこだわりがないのであれば、「派遣薬剤師」という選択肢も検討してみてください。実は、これこそが「確実に残業なし」を実現する最強の方法かもしれません。
派遣薬剤師は、雇用契約で勤務時間が厳格に決められています。18時までの契約であれば、1分でも過ぎれば残業代が発生しますし、そもそも派遣会社が「スタッフを守る」ために、サービス残業を徹底的に禁止しています。店舗側も、高い時給(3,000円〜4,000円)を払ってまで残業させたくないため、定時になると「帰ってください」と促されることがほとんどです。
企業への正社員転職は、年齢やスキルの壁が高く、選考プロセスも長引きます。一方、派遣であれば比較的スムーズに仕事が決まり、かつ高時給で働けます。「まずは一度、残業のない生活を体験して心身を回復させたい」という場合、期間限定で派遣として働くのも賢い戦略の一つです。
「派遣=不安定」と思われがちですが、今は薬剤師不足で仕事は尽きません。何より、定時退社後の自由な時間は、何にも代えがたい財産になりますよ。
求人票の「みなし残業」と「年間休日」をチェック
最後に、求人票を見る際のテクニカルな注意点です。特に注意すべきは「固定残業代(みなし残業代)」の記載です。「月給30万円(固定残業代40時間分を含む)」とある場合、それは「月40時間までは残業しても追加料金を払いません(=40時間ギリギリまで働かせます)」という企業側のメッセージである可能性があります。
また、「年間休日数」も重要な指標です。カレンダー通りの土日祝休みであれば、年間休日は120日以上になります。これが105日や110日程度の場合、土曜出勤が含まれていたり、祝日が休みでなかったりする可能性が高いです。「残業が少なくても休みが少ない」のでは意味がありません。
「基本給」と「固定残業代」の内訳、そして「年間休日120日以上」という基準。この2点を厳しくチェックするだけで、ブラックな求人をかなりの確率でフィルタリングすることができます。
Q. 30代・40代未経験でも企業薬剤師になれますか?
A. 可能です。20代に比べるとハードルは上がりますが、管理薬剤師としてのマネジメント経験や、がん薬物療法認定などの専門資格があれば、DI職や学術職などで高く評価されます。年齢そのものより「即戦力性」が問われます。
Q. 企業薬剤師のボーナスはどれくらいですか?
A. 企業規模によりますが、大手製薬企業などでは月給の4〜6ヶ月分が支給されることも珍しくありません。基本給が低くても、ボーナスで年収が補填されるケースが多いのが企業の特徴です。
Q. 転勤はありますか?
A. 総合職として採用される場合、全国転勤の可能性があります。ただし、地域限定職としての採用や、倉庫管理薬剤師のように勤務地が固定されている職種もありますので、応募時によく確認しましょう。
Q. 英語力は必須ですか?
A. 必須でない求人も多いですが、あると選択肢が大幅に広がります。特に外資系企業や、開発・薬事職では、メールのやり取りや論文読解で英語力が求められます。TOEIC 600〜700点程度あるとアピールになります。
Q. パートでも企業薬剤師になれますか?
A. 求人数は少ないですが存在します。主にDI業務のアシスタントや、倉庫内での軽作業・管理補助などで募集されることがあります。扶養内で働きたい方には人気ですが、倍率は非常に高いです。
Q. 転職活動にかかる期間は?
A. 調剤薬局への転職よりも長く、3ヶ月〜半年程度を見ておくべきです。書類選考や複数回の面接、適性検査など、一般企業の採用フローと同様に進むため、準備期間も含めて余裕を持ったスケジュールが必要です。
まとめ:企業薬剤師への転職で「残業の少ない生活」は実現できる

ここまで、企業薬剤師の残業実態や職種ごとの特徴、転職のリスクについて解説してきました。調剤薬局での「終わりの見えない残業」に疲弊しているあなたにとって、企業という選択肢は間違いなく希望の光となり得ます。
ただし、重要なのは「企業ならどこでも良い」という思考停止に陥らないことです。「倉庫管理」のように本当に残業が少ない職種もあれば、「開発職」のようにやりがいと引き換えに激務となる職種もあります。
最後に、今回の記事のポイントをまとめます。
- 薬剤師の平均残業時間は月10時間とされるが、現場の実感(サービス残業含む)とは乖離がある
- 「残業ほぼゼロ」を目指すなら、医薬品卸や物流倉庫の管理薬剤師が狙い目
- MRやCRAは高年収だが、残業や出張が多くワークライフバランスは取りにくい側面がある
- 企業薬剤師は「対患者業務」や「薬歴」がないため、突発的な残業が発生しにくい
- 未経験からの転職では年収が下がるリスクがあるが、長期的には逆転も可能
- 企業求人の大半は「非公開」のため、転職エージェントの利用が必須
- 派遣薬剤師という選択肢なら、契約で守られた「残業なし」を確実に手に入れられる
- 求人票の「固定残業代」や「年間休日数」をチェックし、ブラック企業を回避する
- 30代・40代でも専門性やマネジメント経験があれば企業への転職は十分可能
- 「自分が仕事に何を求めるか(時間か、お金か、やりがいか)」を明確にすることが成功への第一歩
- まずはエージェントに相談し、市場価値の確認と非公開求人の情報を集めることから始めよう
- 今の環境に違和感があるなら、身体を壊す前に「逃げる」のではなく「選ぶ」勇気を持ってほしい
